「自分で事業を興すこと」は多くの人にとって憧れです。そのため登録販売者の中には、資格を活かして自分の事業を興したいと思っている人がいます。

また逆に、自分で事業を興すために登録販売者の資格を取得しようとしている人もいるでしょう。登録販売者は薬剤師に次ぐ薬の専門家であるため、資格を取ることで専門性の高い事業(=ライバルが少なく成功しやすい事業)を始めることができるためです。

それでは、登録販売者は資格を活かして独立することができるのでしょうか? また登録販売者が独立するためには、どのような手段を選べばいいのでしょうか?

ここでは登録販売者が独立する方法について解説していきます。

登録販売者が個人事業主になれる職種

登録販売者は薬を販売できる資格です。そのため登録販売者の資格者は、自分を責任者にして薬の販売店を開業することができます。

ただ、登録販売者資格には見習い時期があります。

具体的にいうと、市販薬販売に関する業務・実務を過去5年以内に2年以上経験しなければ登録販売者資格が「研修中」の扱いとなり、薬販売の責任者にはなれません。

そのため「登録販売者の資格さえ取れば、自分を責任者にして薬店を開業できる」というわけではありません。研修中の登録販売者が薬店を開業するためには、正規の登録販売者か薬剤師を雇う必要があります。

一方で、すでに業務・実務経験のある正規の登録販売者は、保健所への申請を済ませるだけで市販薬販売の責任者となることができます。正規の登録販売者を別途雇わなくても、あなたの責任で店舗を運営することができます。

なお、登録販売者は第一類医薬品を取り扱えません。そのため登録販売者がドラッグストアを開業する場合、「薬剤師を雇って第一類医薬品を取り扱う店にする」「第一類医薬品を販売しない店舗にする」のいずれかを選択することになります。

インターネット販売のみで開業することはできない

また開業を考えている登録販売者の中には、インターネット販売で資格を活かしたい人もいるでしょう。

一般的に、インターネット販売業の開業は実店舗の開業よりも容易です。店舗物件などを探す必要がないですし、少ない人数で運営できるため初期費用・ランニングコストともに安くなります。

また自宅で開業すれば、通勤の時間を省きながら効率よく経営ができます。そのため、インターネット販売はハードルの低い開業方法として人気が高いです。

ただ市販薬販売の場合、インターネット販売の開業は簡単ではありません。市販薬のネット販売にはさまざまな規制がかかっているためです。

具体的にいうと薬を一般客に販売する実店舗の存在がなければ、ネット上で市販薬を販売することができません。また「一般的に薬店と認められる形態の店舗」でなければ市販薬のネット販売許可を得られないため、自宅を薬販売の実店舗として申請することも不可能です。

実際に以下は、厚生労働省による一般用医薬品のネット販売に関する指針です。

ここには、「週30時間以上開店している有形店舗で陳列されている市販薬しかネット販売できない」ことが記されています。また有形の店舗であることを個別で実地確認されるため、自宅や事務所などを「薬の販売店」として申請することもできません。

したがって登録販売者資格を持っていても、薬のインターネット販売のみで開業することは不可能なのです。

・登録販売者がドラッグストアを開業する方法

以上の理由から、登録販売者資格を活かした事業を興したいのであれば、市販薬の販売店を開業することになります。このとき、登録販売者がドラッグストアを開業する方法は大きく分けて2通りあります。

1つ目は立地や物件を自分で選び、あなた自身の力で開業する方法です。「自分の店を持つ」というと、この方法を想像する人が多いでしょう。

2つ目は、ドラッグストアチェーンのフランチャイズに加盟する方法です。フランチャイズに加盟すると、大手小売店の屋号を借りながらあなたが店舗のオーナーとなることができます。

これら2つの方法には、それぞれメリットとデメリットがあります。そのため、自分に合った開業方法を選ぶことが大切です。

個人経営店を開業するメリット・デメリット

個人経営のドラッグストアを開業する場合、まずは開業可能な物件を探すことになります。当然ながら、市販薬販売の需要がある地域に開業しなければ安定した売上が得られません。そのため、開業する店舗の立地については慎重に選ぶ必要があります。

開業する物件を決めたら、事業計画書を作成します。これを作成することによって開業後の経営が波に乗りやすくなるだけでなく、個人経営店を開業するための資金調達(融資・投資)が可能となります。

その後、外装・内装をドラッグストアに適した状態にリフォームして、レジや陳列棚などを用意します。このとき、医薬品の陳列や薬店設備などには細かい規定があるため、それに準じたレイアウトにしなければなりません。

例えば以下は、厚生労働省による店舗販売業(薬店の開業)に関するガイドラインです。

ここには薬店の開業に「十分な換気や清潔さ、明るさ」「冷蔵貯蔵設備」「情報提供設備」などが必要であると記載されています。この規定を満たせないと、医薬品販売の許可を得られません。

ただ、このような規定に沿った実践事項を自分の力だけでモレがないように実施することは難しいです。そのため薬店を開業手続きは地域にある保健所と相談しながら進めましょう。そうすることで、スムーズに薬店の開業を達成しやすくなります。

経営・運営の自由度が高いことが最大のメリット

なお個人経営のドラッグストアを開業する最大のメリットは、経営・運営の自由度が高いことです。

自力で薬店を開業すると、店舗の立地や規模などを自分で決められます。また店舗のコンセプトも自由に設定できるため、一般的なドラッグストアのような店舗だけでなく、顧客との関係性を大事にする「街の健康相談屋」を作り上げることもできます。

他にも、漢方薬中心の店舗にしたり美容系薬店を目指したりすることも可能です。陳列・装飾も好きなように行えるため、あなたのこだわりを反映した理想の薬屋を開業することができるのです。

さらに、個人薬店を開業すればインターネット上で薬を販売することもできます。

実店舗は周辺地域の顧客にしか商品を販売できませんが、インターネットを利用すれば全国各地の人が顧客になり得ます。そのためインターネット上にも店舗を持つと、売上が安定しやすくなり経営上のリスクが少なくなります。

事業が成功したら高年収を実現できる

また個人薬店だと、事業の成功によって収入がかなり高くなります。

具体的な収入額は店舗規模によりますが、事業が成功すると年収1,000~2,000万円が可能だといわれています。中には、年収3,000万円を超えるケースもあります。これは、会社員の登録販売者では届かない年収額です。

また、自分で店を持てば定年を迎える年齢になっても働き続けることができます。そのため長期間現役として働き続けることが可能となり、老後の経済的不安が少なくなります。店舗に立つことが難しい年齢になれば、人を雇って店舗運営を任せることでオーナーとして不労所得を得ることも可能です。

そのため個人開業を成功させることができれば、サラリーマンでは不可能な高額収入を継続して得ることが可能となります。

多額の開業資金と経営スキルが必須

ただ一方で、事業に失敗すると高額収入は実現しません。薬店の経営状況によっては、会社で雇用されるよりも収入が低くなる可能性があります。

さらに最悪の場合、経営赤字となって借金を抱えるリスクもあります。そのため個人薬店の開業で高収入を実現するためには、高い経営スキルが必要となります。

また個人薬店を開業するためには、多額の開業資金が必要となります。例えば土地を用意して新しい店舗を建てる場合、土地の取得費用や諸手続き費用、建物の建築費用がかかります。地域にもよりますが、新しく店舗を建てるのであれば少なくとも1,000万円以上かかります。

また既存の建物を賃貸する場合、仲介手数料や保証金などが必要です。例えば以下は、大阪のテナント情報です。

このテナントは賃料が月額35万1,500円の物件ですが、借りるためには敷金1ヶ月分、礼金約2ヶ月分を用意しなければなりません。そのため、物件を用意するだけで100万円以上の初期費用が必要となります。

また薬店を開業するためには、賃貸した物件を薬店に適した状態にリフォームする必要があります。一般的に、リフォームには数百万円がかかります。

このようにして初期費用をかけて物件を用意したら、店舗に陳列する商品を仕入れたり陳列棚やレジなどの備品を用意したりします。当然ながら、商品の仕入れ・備品の準備にも多額の費用が必要となります。

さらに経営が波に乗るまでの運転資金として、数ヶ月分の物件賃料や水道光熱費などを用意しておく必要もあります。従業員を雇う場合、人件費もかかります。

このように、個人で薬店を開業するには多額の初期費用がかかります。一般的には、1,000万円以上ないと開業は難しいでしょう。

このとき、店舗の開業資金は銀行からの融資で確保するのが基本です。ただ、経営がうまくいかなければ借金だけが残ることになります。

そのため個人開業は成功すれば高額収入が可能である一方で、失敗すれば多額の借金が残るハイリスク・ハイリターンの開業方法であるといえます。

チェーン店と競合できる価格で商品を仕入れられない

また個人で薬店を開業する場合、あなたが一から仕入れ先を探さなければなりません。具体的にいうと、医薬品卸会社や製薬会社などと交渉して商品を仕入れることになります。

このとき、あなたがドラッグストアなどで商品仕入れ先の営業担当と良い関係性を築けているのであれば、仕入れ先を確保しやすいです。

一方で、人脈がまったくない状態から仕入れ先を確保するのは困難です。医薬品を卸す側からしてみれば、自社の商品が売れるか分からない店舗に商品を卸したくありません。

また、経営状況が不透明であるため、卸した商品分の代金を回収できる保証がありません。そのため、通常の物流会社に個人が商品の仕入れを相談しても実現しにくいです。中には、門前払いを受けるケースもあります。

さらに、仮に物流会社と取引することができたとしても、一般的な小売チェーンと同等の原価で仕入れることは期待できません。

小売チェーンは大口で商品を仕入れることが可能であるため、卸会社に原価を下げてもらっているケースが多いです。そのため大口で仕入れることが不可能な個人薬店だと、ドラッグストアチェーンよりも割高で仕入れざるを得ない状況となります。

当然ながら、商品の原価が高くなれば売価を高く設定せざるを得ません。そのため、一般的な小売チェーンよりも高い価格で商品を売ることになります。

このような状況で個人薬店への来店を増やすためには、「じっくり健康相談できる」「特定の分野に特化している」など独自の来店動機が必要です。価格で勝負できない個人薬店は、顧客のニーズに沿った付加価値をつけなければ成功することができないのです。

フランチャイズ開業するメリット・デメリット

一方で、フランチャイズを利用しての開業は個人薬店の開業とは真逆のメリット・デメリットがあります。例えば、個人薬店の開業だと「あなたの理想通りのこだわり薬店」を作り上げることが可能です。

これに対してフランチャイズでは、すでに存在しているドラッグストアの屋号を借りるためブランドイメージに反する経営ができません。具体例を挙げると、過剰な値引きが禁止されていたり規定時間は開店し続けなければいけなかったりします。

また、ドラッグストア業界にも店舗をフランチャイズ展開している会社は多いです。ただ、そのほとんどが「すでに店舗を多数展開している事業者」とのフランチャイズ契約です。そのため、ドラッグストア業界で個人がフランチャイズ開業することは難しいです。

したがって登録販売者がフランチャイズ開業する場合、ローソンやファミリーマートなどの「薬を扱うコンビニエンスストアのフランチャイズ開業」となることを覚えておきましょう。

少ない開業資金で始められるメリットがある

なお、フランチャイズを利用した開業には大きなメリットがあります。それは、個人開業に比べて初期費用が低く抑えられることです。

前述のように、個人薬店を開業するためには1,000万円以上の初期費用が必要です。これに対してフランチャイズだと、数百万円あれば開業可能です。

例えば以下は、大手コンビニエンスストアチェーンのフランチャイズ加盟店募集です。

この募集は、店舗物件に関する費用と営業什器(備品)などが本部負担となるため、開業時の必要資金がフランチャイズ加盟金100万円と開店準備金約50万円の計150万円ほどになります。フランチャイズ開業であれば、初期費用がかなり低く抑えられるのです。

他にもコンビニエンスストア業界はフランチャイズ展開が進んでいる業界であるため、初期費用を抑えられる支援制度が充実しています。

例えば以下は、薬を扱っている店舗のあるコンビニエンスストアチェーンのフランチャイズオーナー募集です。

このオーナー募集では夫婦もしくは2親等以内の専従者とフランチャイズに加盟すると、加盟金100万円を免除しています。このような制度を利用すると、より開業の初期費用を低く抑えることができます。

経営フォロー・ネームバリューで経営安定しやすい

またフランチャイズに加盟して開業すると、大手チェーンストアの屋号を借りることができます。そのため新規顧客を獲得しやすく、個人で薬店を開業するよりも経営が軌道に乗りやすいメリットがあります。

特に登録販売者がオーナーとなってコンビニをフランチャイズ開業する場合、オーナーが勤務している時間帯は市販薬を販売することが可能です。薬を扱っているコンビニエンスストアは多くないため、競合店と差別化しやすくなります。

また、フランチャイズ開業だと本部社員からの経営アドバイスを受けることができます。そのため、経営スキルや経験が少ない人でも事業を安定させやすいです。

さらに中には、経営破綻が起こりにくい制度を完備しているオーナー募集もあります。例えば以下は、東京や大阪など全国に店舗を展開するコンビニエンスストアチェーンのオーナー募集です。

このオーナー募集は水道光熱費の助成や店舗運営支援金、総収入最低保証など、さまざまな制度が充実しています。このような制度を利用すると、特別なスキルがなくても経営を安定させやすくなります。

事業が成功しても高年収は難しい

ただ一方で、フランチャイズ開業は事業に成功しても高収入を実現しづらいです。フランチャイズ加盟店は本部にロイヤリティを払わなければならないためです。

このとき、ロイヤリティの額はフランチャイズの契約方法によって異なります。具体的にいうと、開業の初期費用を低く抑えるほどロイヤリティが高くなります。

フランチャイズ開業で初期費用を低く抑えられるのは、本部が初期費用の多くを負担しているためです。そのためオーナーが初期費用を低く抑えるほど、本部の負担が重くなります。

この負担を回収するために、オーナーの初期費用が低い契約方法だと本部へのロイヤリティ額が高くなります。実際に以下は、コンビニエンスストアチェーンのオーナー募集です。

この募集では、開業の初期費用1,000万円を用意できるオーナーは月額総利益額のうち、300万1~450万円の部分の52%、450万1円以上の部分の49%をロイヤリティとして支払います。

これに対して契約必要資金150万円ほどで開業する方法だと300万1~550万円の部分の63%、550万1円以上の部分の63%がロイヤリティとなります。開業の初期費用を抑えると、高額のロイヤリティを支払わなければならなくなるのです。

当然ながら、本部へのロイヤリティの額が高くなるとその分だけ手元(店舗)に残る利益が少なくなります。店舗に残った利益額から従業員の給料などを支払わなければならないため、利益額によってはオーナーの収入がかなり少なくなるリスクがあります。最悪の場合、無給となる可能性すらあります。

そのためフランチャイズで開業する場合、初期費用を安く抑えられる一方で高収入を実現することは難しくなります。

あなたに向いている方法で独立を成功させる

これまでに述べたように登録販売者が店舗を開業する2つの方法には、それぞれメリット・デメリットが存在します。そのため、それぞれの特徴を踏まえた上で「どちらの方法が自分に合っているか」を判断する必要があります。

例えば豊富な人脈や明確な経営ビジョンがあるのであれば、個人開業が向いているでしょう。人脈があれば商品の仕入れが容易になりますし、場合によっては融通を効かせてくれることもあります。

また客観的な視点に基づいた明確な経営ビジョンがあれば事業が成功しやすいですし、このような人は自由度の低いフランチャイズ開業だと満足できないでしょう。

一方で開業資金を低く抑えたい人や経営スキルに自信がない人は、フランチャイズ開業を選択するといいです。自力のみで開業するよりもリスクを抑制できますし、本部社員のアドバイスを受けながらリスクの低い店舗経営を実現することができます。

なお、いずれの場合であっても一時的に収入が下がることは覚悟しなければなりません。また、自分の店を持つと事業の責任のすべてをあなたが負うことになります。軽い気持ちで開業すると失敗しやすいため、フランチャイズ開業であっても「自分の力で商売する」という意気込みで取り組むことが大切です。

まとめ

登録販売者は市販薬を販売できるようになる資格であるため、資格を活かして開業したい人もいるでしょう。中には、インターネット事業や個人輸入事業を興したいと考える人もいるようです。

ただ市販薬は一般的な商品と異なり、不適切な使用によって健康被害が生じるリスクのある品物です。そのため、市販薬のインターネット販売・輸入はさまざまな規制がかけられており、薬のネット販売単独で開業したり薬の輸入代行業を行ったりすることはできません。

一方で登録販売者が薬の販売店を開業する方法には、個人開業とフランチャイズ開業の2種類があります。これらには、それぞれメリット・デメリットの両方があります。

そのため登録販売者資格を活かして開業を考えている人は、これまでに述べた情報を参考にして、あなたに合った開業方法を選びましょう。そうすることで理想の店舗を持つことができ、仕事で充実した日々を送ることができます。


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