調剤事務などの民間資格は「知識を保有している」という証でしかありません。そのため「民間資格の保有が必須な業種」は存在しません。民間資格を持っていても、就職ではそれほど有利に働かないのです。

一方で、国家資格を取得すると就職がかなり有利になります。ただ、その分だけ民間資格よりも責任が重いため、健常な人しか資格を取得できないケースが多いです。

国家資格の一つである登録販売者も同じであり、資格を取得する際には医師の診断書が必要です。つまり、登録販売者資格の取得には健康上の制限があるのです。

では、うつ病や発達障害・知的障害などを持つ人は登録販売者になれるのでしょうか? また、このような持病を持つ人が登録販売者として働いていくためには、どのような点に注意すればいいのでしょうか?

ここでは、適応障害や知的障害などを持つ人が登録販売者として働く方法について解説していきます。

登録販売者になれない人はいるのか?

登録販売者は市販薬を販売できるようになる資格です。言い換えると「市販薬販売における責任を担う資格」になります。

市販薬は医療用医薬品(医師から処方される薬)に比べて副作用リスクが低いです。ただ、だからといって「誰がどう使っても良い」というものではありません。服用する人の持病や使用方法などによっては、重篤な副作用が起こるリスクがあります。

実際、頻度は少ないものの市販薬でも重篤な副作用が起こっている事例はいくつもあります。そのため、市販薬を扱う登録販売者には「正しい知識を持って適切な薬の使用を促す」義務があります。

このことから「適切な薬の使用を案内できない」と判断される人は登録販売者になることができません。

例えば、法律違反などによって登録販売者資格を剥奪されたり刑に処されたりした人は、一定期間登録販売者資格を取得することができません。これは、「法律に違反する=正しい判断ができない状態である」と判断されるためです。

また、麻薬や覚醒剤などの中毒者も登録販売者資格を取得できません。麻薬や覚醒剤などに使用は「薬物の乱用」です。当然ながら、薬物の乱用者が薬の専門家として働けるわけがありません。

これと同様に、うつ病など心身の障害によって「市販薬販売の責任を全うできない」と判断された場合、登録販売者資格を取得することはできません。

登録販売者の欠格事項にうつ病・知的障害はない

ただ、一言にうつ病といっても症状には個人差があります。重症で日常生活すらまともに送れない人がいれば、一見うつ病には見えない人もいます。

また同様に、知的障害も個人差がかなり大きいです。障害者雇用を利用しなければ就職できない人がいる一方で、一般社会で就労している人もいます。そのため、うつ病・知的障害であるだけで登録販売者の欠格事項に当てはまるわけではありません。

実際に以下は、東京都福祉保健局による登録販売者試験に合格後の申請(販売従事登録)に必要な診断書の様式です。

ここには申請者が麻薬などの中毒の項目に対する答えが「なし」「あり」である一方で、精神機能の障害に関しては「専門家による判断が必要」と記載されています。つまり、うつ病・知的障害であったとしても、診断書により心療内科などの専門医から「市販薬販売における責任を担える」と判断されれば登録販売者になることができるのです。

なお、販売従事登録のために必要な診断書は主治医でなくても発行できます。また診断書は軽い問診を受けるだけで発行されます。特別な検査が行われることはありません。

そのため病気や障害などを申告せず、病気・障害を隠したまま「健常者である」という診断書を発行してもらうことができます。

ただ、病気・障害を隠して資格を取得することは避けるべきです。病気・障害の隠匿が発覚した場合、資格が取り消されるリスクがあるためです。そのため、従事登録の際の診断書は病気・障害を診断した心療内科などの主治医に発行してもらいましょう。

従事登録後に精神機能の障害が発覚した場合

なお従事登録をしたタイミングでは心療内科にかかっていなくても、登録販売者として働き始めた後にこれら精神機能の障害が発覚するケースもあります。

このような場合であっても、都道府県庁は「改めて書類を提出する義務はない」としています。つまり、従事登録後に発覚した精神障害は報告する必要がありません。

このとき、うつ病などの精神疾患は病院での治療で改善します。そのため、従事登録後にうつ病を発症したとしても、軽度であれば治療を受けながら仕事を続けることは可能でしょう。

ただ重症なうつ病を発症した場合、簡単な読み書き・計算すらこなせなくなることがあります。このようなケースでは、登録販売者としての日常業務が困難になるだけではなく、接客ミスによる重篤な副作用の発生が起こりやすくなるため、休職するのが賢明です。

また発達障害や知的障害などの中には、軽度であることによって大人になるまで発覚しないケースがあります。

ただ障害が従事登録後に発覚したということは、発覚前までは問題なく登録販売者業務に就けていたはずです。そのため、登録販売者業務をこなせないほどの精神障害・知的障害あるとは認定されません。

精神機能の障害がある登録販売者が働き続けるコツ

うつ病や発達障害などであっても、医師の診断があれば登録販売者として働くことができます。

ただ、これら病気・障害のある人は一般的な人と異なる状態・感覚となっています。そのため無自覚なまま登録販売者として働き始めると、実際に登録販売者となったときにストレスを抱えやすいです。その結果、退職につながりやすくなります。

そのため、うつ病や発達障害等がある人は、「病気・障害がある」と日頃から自覚して、ストレスの生じにくい働き方を心がけるべきです。具体的には、以下のようになります。

うつ病などの適応障害がある人

うつ病を発症すると判断力が低下します。また言語能力も低下しやすくなり、論理的な思考ができなくなります。

ただ、これらの能力は登録販売者としての接客に必要不可欠です。薬の相談を受けるためには相手の話をよく聞く必要がありますし、適切な回答を顧客が理解できるように説明できなければならないためです。そのため、うつ病を発症していると登録販売者として満足に接客できなくなります。

実際に、私は過去に登録販売者として就業中にうつ病を発症したことがあります。症状が重いときは、簡単な計算や顧客への薬の案内などがスムーズにこなせなくなりました。うつ病を発症すると、薬の接客が難しくなるのです。

一方で、うつ病を発症していても症状が軽い状態であれば、納品や品出しなどの体を動かす仕事は取り掛かりやすいです。そのため、うつ病などの適応障害を発症している登録販売者は納品・品出しなどの体を動かす仕事を中心に取り掛かるといいでしょう。

また薬の接客が生じたときは、無理にたくさんのことを案内しようとせず、必要最低限のことだけを伝えるように心がけましょう。病状が落ち着くまでは「必要最低限の任務をこなす」意識で仕事に取り掛かることが大切です。

例えば、現在私は薬の接客をする際には可能な限り健康アドバイスを添えるようにしています。ただ、うつ病を患っていたときは思考に余裕がなかったので「笑顔で、聞かれたことだけに答える」ことを目標にしていました。

基準を下げることで、うつ病を悪化させずに病気を治療しながら就業し続けることができたわけです。

そのため、うつ病を患いながら働かざるを得ない登録販売者は、必要最低限の接客を心がけることが大切です。そして、治療によって病気の症状が緩和したら徐々に接客の質を高めていくようにしましょう。

軽度の発達障害・知的障害などがある場合

一方で発達障害・知的障害などは病気ではないため、治療によって障害そのものが解消されることはありません。そのため、登録販売者として働き続けるためには「業務への取り掛かり方」を工夫する必要があります。

例えば発達障害や知的障害などを抱えている人は、一般的に言う「空気が読めない」というケースが多いです。これは、相手の感情の細かな機微を読み取れないためだといわれています。

このような症状は、登録販売者の接客業務に不利に働きやすいです。顧客の多くは自分の症状を正確に細かく説明できません。そのため、相手の状態を察知する能力が低いと適切な薬を案内しにくいのです。

ただ、だからといって登録販売者としての接客ができないわけではありません。発達障害・知的障害があっても、「決められた手順を踏む」ことはできるケースが多いためです。

具体的にいうと発達障害・知的障害がある人は、その場の状況に合わせて接客することが難しく感じやすい一方で、「スクリプト(台本)通りに接客する」ことであれば問題なくこなせるでしょう。そのため、発達障害・知的障害がある人は「薬の接客スクリプト」をあらかじめ作っておくことが大切です。

実際に、私は過去に軽度の発達障害を持った登録販売者の部下を受け持ったことがあります。彼はスムーズに薬を案内できないことを悩んでいました。また、常連客から彼の接客について「要領を得ない」「話が通じない」などと注意されることもありました。

ただ、彼は「察すること」が苦手ではあったものの「順序通りにこなすこと」は問題ありませんでした。そのため、彼に症状別の接客スクリプトを自分で作ってみるように指導しました。

そうしたところ、接客技術が向上して顧客から注意されることもなくなりました。発達障害や知的障害などがあっても、その障害が軽度であれば、やり方次第で問題なく登録販売者業務をこなせるようになるのです。

そのため軽度の発達障害・知的障害がある人は、症状別の接客スクリプトを自分で作り、頭に入れておくようにしましょう。そうすることで、問題なく登録販売者として働くことができます。

なお、発達障害や知的障害などがある人は、相手の感情が読めないことから相手の話を中断してしまうことがあります。また、このような症状は無自覚であるケースが多いです。

ただ相手の話が薬に関係のないことであっても、話を中断されると「こちらの話を聞いてくれない」と信用を失うことになります。そのため、発達障害・知的障害がある人は「相手の話を中断せずに最後まで耳を傾ける」という意識を強く持ちましょう。

心療内科にかかっている登録販売者が職場を選ぶコツ

ただ、このように注意して働いていても、環境が良くなければ思うように業務に取りかかれません。その結果、自信を喪失して悪い方向へと向かってしまいます。

そのため、うつ病や発達障害などがある人は、以下のようなポイントを参考にして適切な職場を選ぶことが大切です。

適応障害のある人は業務負荷の軽い職場を選ぶ

基本的に、うつ病などの適応障害を患っている状態で新しい環境に飛び込むのは控えるべきです。病気が悪化しやすくなるためです。

ただ中には、やむを得ない理由で新しい職場を探さなければならない人もいるでしょう。このような場合、健康だったときと同じ基準で職場を選ぶと病気が悪化するので注意が必要です。

例えば、スキルアップするためには業務量がある程度多く、仕事を任せてもらえる職場で働く必要があります。

ただ、うつ病になっている状態で通常通りの業務量をこなそうとすると病状が悪化しやすくなります。そのため、うつ病の人は業務負荷が軽い職場を選ぶべきです。

例えば以下は、千葉や奈良、京都などに店舗を展開するドラッグストアの求人です。

ここには店長候補を募集しており、新しいことにチャレンジしたい人材を求めていることが記されています。また残業についての記述がないことから、残業が長い可能性も高いです。このような職場はうつ病が悪化しやすくなるため避けるのが賢明です。

これに対して、以下は東京や神奈川、大阪など全国に店舗を展開するドラッグストアの求人です。

ここには、管理する商品数が少ないため残業があまり生じないことが記されています。このような環境であれば業務内容が楽なため、うつ病の人であっても仕事を続けやすいです。

顧客対応の少ない職場も重要

また、うつ病や発達・知的障害の人では、一度に複数の作業を気にかけることが苦手であるケースが多いです。ただ、ドラッグストアなどの接客業では複数の業務を並行・判断することが多いです。

例えばドラッグストアの正社員スタッフは、自分自身が品出しやシフト作成などの業務をこなしながら、売れ行きやスタッフそれぞれの作業・進捗状況を把握しなければなりません。また、状況に応じて人員配置を変える判断の必要性も生じます。

さらに薬の相談をしたい顧客が同時に複数名来店した場合、応援を呼んだり接客時間を調整したりしなければなりません。他の顧客の様子を確認しながら、その場で判断しなければならないのです。そのため、ドラッグストアなどの小売店勤務はうつ病の状態の人や発達・知的障害の人には難しく感じるケースが多いようです。

実際に、私の知り合いには大人になってから診断された「大人の発達障害」の人がいます。この人は登録販売者ではありませんが、小売店での勤務をうまくこなせずに事務職へ転職しました。個人差はあるものの、発達障害などを持つ人は小売店勤務が難しいことが多いのです。

ただ、登録販売者資格は小売業だけでなく調剤薬局でも活かすことができます。

大病院そばの門前薬局である場合を除き、調剤薬局は顧客対応が少なく並行する業務量も少ないです。そのため精神疾患や発達障害、知的障害などがある人は、小売店ではなく調剤事務を目指しても問題ありません。

また小売店であっても、規模の小さな個人薬局や漢方薬局などは業務量や来店顧客数などが少ないです。そのため、比較的ゆったり仕事ができます。薬の専門家として活躍したいのであれば、このような業態を選ぶのもいいでしょう。

転職サイトを利用して精神機能の障害があっても働きやすい求人を探す

ただ、あなたに合った職場を自力で探すのは難しいです。どの企業も、求人では「働きやすい職場」であることをアピールします。そのため、求人を見るだけでは実際の業務量や人間関係などが見えてきません。

そのため、うつ病や発達障害などを抱えている人は、転職サイトを利用して求人を探しましょう。求人サイトを利用すると、担当者があなたに合った求人を探してくれます。このとき、資格を取得したばかりの状態であっても問題なく転職サイトを利用できます。

また担当コンサルタントは求人先企業の内情に詳しいため、会社の方針や業務量、人間関係などのさまざまな観点からあなたに合った求人を勧めてくれます。そのため求人サイトを利用すると、よりあなたが働きやすい環境を見つけ出しやすくなります。

ただ、担当者の力量には個人差があります。そのため転職サイトは最低でも3社以上登録しましょう。そうすることで、よりあなたに適した職場への入社が叶いやすくなります。

まとめ

登録販売者の従事登録では、精神機能の障害の有無に関する医師の診断書が必要です。そのため、うつ病や知的障害などがある人は登録販売者になれないと思われがちです。

ただ実際には、うつ病・知的障害そのものが登録販売者の欠格事項となるわけではありません。専門医が「市販薬販売における責任を負う能力がある」と判断した場合、うつ病・知的障害があっても登録販売者になることができます。

しかし、うつ病や知的障害などがある人は職場選びを慎重に判断し、働き方を工夫する必要があります。そうしなければ働きにくく、うつ病が悪化するなどの状態に陥ります。

そのため、うつ病や知的障害などがある人は転職サイトを利用して求人を探し、これまでに述べた働き方によって楽な業務を探しましょう。そうすることで、うつ病・知的障害があっても登録販売者としての仕事を続けやすくなります。


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